これまで
・散骨に関するガイドラインが公表
https://hajime-himonya.com/?p=5071
・散骨論議の経緯
https://hajime-himonya.com/?p=5079
と論じてきた。
時間を置いたこともあり、今回と次回(予定)にわたり「解題・散骨ガイドライン」と題して書く。
散骨論議の経緯で不足した点も本項で補っていく。
令和2年度厚生労働科学特別研究事業「墓地埋葬をめぐる現状と課題の調査研究」研究報告書より 散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)
内容
■ガイドラインの目的の問題点
1 目的 本ガイドラインは、散骨が関係者の宗教的感情に適合し、かつ公衆衛生等の見地から適 切に行われることを目的とする。
《解題》
本項は墓地埋葬法第1条に準拠している。
「この法律は、墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的とする。」
「かつ公衆衛生等の見地から」は墓地埋葬法の「且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から」を略したもの、と解される。
しかし、ここで「公衆衛生」を明示し、「公共の福祉」を明示しなかったのはなぞである。
散骨の対象となる焼骨については、感情的嫌悪感はあるかもしれないが、公衆衛生上の危惧は想定しにくい。
墓地埋葬法で「公衆衛生」を目的に明示したのは、火葬及び土葬について公衆衛生上の対処が必要という点が主と考えられる。
それゆえガイドラインで明示するなら、むしろ「公共の福祉」ではないか?
憲法13条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
つまり「公共の福祉に反しない限り」という点が要点ではなかろうか。
うがった見方をすれば、憲法13条の個人の自由を持ち出したくなかったから、あまり関係ない「公衆衛生」を明示し、「公共の福祉」を明示しなかった、とも解されるがいかがか。
■ガイドラインの定義の問題点
2 定義 本ガイドラインにおける用語の定義は次のとおりとする。
(1) 散骨 墓埋法に基づき適法に火葬された後、その焼骨を粉状に砕き、墓埋法が想定する埋蔵又は収蔵以外の方法で、陸地又は水面に散布し、又は投下する行為
(2) 散骨事業者 業として散骨を行う者
(3) 散骨関係団体 散骨事業者を会員とする団体
《解題》
(1)には散骨の定義が記される。
単に「焼骨」と書かないで「墓埋法に基づき適法に火葬された」と書くのは、個人的に焼却される等の犯罪行為を排除するほか、焼骨に「火葬許可証」「火葬証明書(分骨等に付帯)」「埋蔵(収蔵)証明書(改葬許可証に付帯)」のいずれかの証明書が付帯することを必須条件としていることを示すのであろう。
だが、ここに暗示するだけで散骨事業者が受け取るべき書類としての記載がないのは曖昧と言うべきである。
「焼骨を粉状に砕き」とし、3(3)焼骨の形状で「焼骨は、その形状を視認できないよう粉状に砕くこと」と具体的に記載している。
通常は「原型がわからないよう2ミリ程度以下に砕き」と表現されることが多いのに対して、具体表記は行っていない。
「墓埋法が想定する埋蔵又は収蔵以外の方法で」とあるのは、「現行の墓地埋葬法は散骨を想定したものではない」とする厚労省等の見解を前提としたものだろう。
だが、厚労省は墓地の区域内に散骨エリアを設けて散骨することを否定していないと思われるが、この場合はいかがであろうか。
散骨する場所としては「陸地又は水面」としている。この点は後段で扱う。
(2)で本ガイドラインは「個人」を対象にするものではなく、あくまで「事業者」を対象とするものであることを明記している。
(3)に「散骨関係団体」とあるのは、事業者団体に対して、4に記載されたような監督を期待してのものであろう。
現状においては全ての散骨事業者が団体に所属しているわけではなく、本ガイドラインにおいて散骨事業者がいずれかの散骨関係団体に所属することまでを求められているわけではない。
■散骨で問題になる法令の問題—墓地埋葬法、刑法
3 散骨事業者に関する事項
(1) 法令等の遵守 散骨事業者は、散骨を行うに当たっては、墓地、埋葬等に関する法律(昭和 23 年法 律第 48 号)、刑法(明治 40 年法律第 45 号)、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭 和 45 年法律第 137 号)、海上運送法(昭和 24 年法律第 187 号)、民法(明治 29 年法 律第 89 号)等の関係法令、地方公共団体の条例、ガイドライン等を遵守すること。
《解題》
墓地埋葬法、刑法との関係は前回扱ったので簡単にしておく。
・墓地埋葬法
墓地埋葬法がこのガイドラインの出発点であるからこれが問題になることは言うまでもない。
・刑法
刑法で該当するのは190条「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する。」で、ここには死体損壊罪、死体遺棄罪、遺骨遺棄罪について定められているが、散骨は特に「遺骨遺棄罪」との関係で問題となる。
■散骨は廃棄物の投棄と同等の行為か?
《解題》
・廃棄物の処理及び清掃に関する法律
散骨との関係で廃棄物の処理及び清掃に関する法律が取り上げられる理由は少々複雑である。
散骨に関する最初の条例は北海道長沼町のものである。
長沼町さわやか環境づくり条例
https://www1.g-reiki.net/maoi.naganuma/reiki_honbun/a091RG00000348.html?id=j13
この条例の目的は明らかに「散骨禁止」にあるのだが、それがなければこの条例はそもそも策定されなかったのであるが、この条例は実態としての散骨規制をオブラートに包んでいる。
目的としては「この条例は、町の環境美化を推進するために、町、町民等、事業者及び土地占有者等の責務その他必要な事項を定め、良好でさわやかな環境を確保し、清潔で美しいまちづくりを進めることを目的とする。」と書かれている。
「環境美化」が目的で、その中で
「(投棄の禁止)第10条 何人も、みだりにごみを捨ててはならない。
(散布の禁止)第11条 何人も、墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない。」
が出てくる。
つまり「ごみをみだりに捨てる」行為と同列に「散骨(墓地以外の場所での焼骨の散布)」行為が禁止されている。
前回https://hajime-himonya.com/?p=5079述べたように、長沼町がこの条例を設けたのは、あまりに酷い事業者による焼骨の散布があったからである。
こうした酷い事業者の行為を排除することにこの条例の目的はあったと理解できる。
しかし散骨を「廃棄物のみだらな投棄」と同列にしたのは条例作成上いささか問題がある。
ときどき「焼骨中拾骨されなかったものは産業廃棄物である」という記述を目にすることがあるが、これは妥当であろうか?
刑法の「遺骨」は「拾骨された焼骨」のことであるが、「拾われなかった焼骨」を産業廃棄物と理解するのはいささか乱暴なように考える。
長沼町が「散骨された焼骨」を廃棄物と同等にとらえたのは、散骨行為により所有権放棄された物=廃棄物という理解があったのではないか。
廃棄物処理法=廃棄物の処理及び清掃に関する法律
第1条「この法律は、廃棄物の排出を抑制し、及び廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、再生、処分等の処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする。」
第2条「この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く。)をいう。」
とある。
「産業廃棄物」とは「事業活動に伴って生じた廃棄物」である。
散骨の場合の焼骨を「産業廃棄物」とも単に「廃棄物」とも理解するのは適当ではないだろう。
後続の自治体は、長沼町の条例に倣うかのように、散骨規制を環境美化名目として行っている。
一例としてあげれば秩父市環境保全条例である。
https://www1.g-reiki.net/chichibu/reiki_honbun/r165RG00000540.html
「この条例は、市民が健康で文化的な生活を営む上において、良好な環境が極めて重要であることにかんがみ、市、市民及び事業者それぞれの環境の保全についての責務を明らかにするとともに、その施策の総合的な推進を図るために必要な事項を定めることにより、良好な環境を保全することを目的とする。」
野生動植物の保護、公共用水域等の水質保全、自転車等の放置の防止、きれいな空気の保全…と列挙されている。
そこに「第7章 焼骨の散布制限、ごみ等の投棄禁止及び飼犬のふん害等の防止(平20条例38・改称)」が加わっている。
おそらく2005(平成17)年の環境保全条例に2008(平成20)年に「何人も、墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない。ただし、市長が別に定める場合は、この限りでない。」が加わったのであろう。
これも長沼町同様に「何人も、みだりにごみ等を投棄してはならない。」と並んでいる点は同様である。
焼骨を廃棄物と同等に取り扱うのはいささか不当で乱暴であるように思う。
散骨を廃棄物の不当投棄と同等に扱い、規制するのも不適切であるように思う。
自治体が散骨を公共の福祉の観点で規制しようとするならば、環境美化問題に紛れ込ませるのではなく、きちんと問題提起すべきではないか。
「散骨」を「廃棄物の不当投棄」と同列に扱うことには、散骨されるのは自治体以外の人の焼骨=他人の焼骨」という心理が働いているのではないだろうか。
葬送の自由ではなく、他者の焼骨の散布=迷惑行為、という理解が働いたのではなかろうか?
ここではこれ以上は踏み込まずに、廃棄物処理法と関係して論じることは適切ではないことだけを言っておく。(続く)