「葬祭サービスとは何か?」について、歴史的文脈、遺体、遺族心理と過去3回論じてきた。
しばらく時間を置いたが、最終回となる今回は「葬祭ディレクター」を扱う。
葬祭サービスの歴史的文脈ー葬祭サービスとは何か?(1)
https://hajime-himonya.com/?p=1563
死者・遺体の尊厳を守るー葬祭サービスとは何か?(2)
https://hajime-himonya.com/?p=1565
遺族のケアで考えるべきこと 「死別」ということ―葬祭サービスとは何か?(3)
https://hajime-himonya.com/?p=1567
なぜ「葬祭ディレクター」なのか?
過去22年間、葬祭業界が団体の壁を越えて一致して取り組んできたのが「葬祭ディレクター技能審査」である。
この制度は「葬祭サービス」という事業分野の社会的地位の向上を目的とし、このためには葬祭サービスに携わる「人材の育成、人材の質の向上」が欠かせない、という共通認識の下に取り組んできたものであるからだ。
■「葬祭ディレクター技能審査」の経緯と概容
「葬祭ディレクター」は一般名称ではない。
厳密に規定された称号である。
葬祭サービス業務に携わる必須資格ではないものの、「看護師」「医師」「税理士」がそれぞれ定められた試験に合格して認定された者だけを指す称号であるのと同様である。
「葬祭ディレクター」は、
「葬祭ディレクター技能審査協会が毎年実施する葬祭ディレクター技能審査に合格し、1級(または2級)葬祭ディレクターとして認定された者だけが名乗ることが許される称号」
としてある。
試験を実施し、認定するのは協会であるが、「葬祭ディレクター技能審査」は、1996(平成8)年3月に労働大臣(現・厚生労働大臣)の認定を受けた制度としてある。
「技能審査」は、厚労省において現在大きく見直され、現在、新規認定はない。
しかし、葬祭ディレクター技能審査は、過去の実績(毎年約2,600人に及ぶ受験者数、社会的評価の定着)、充実した評価方式が高く評価され、「異例」として存続を許可され継続している。
将来的には(直ちにではないが)「技能検定」の枠組みに包摂されるのではなかろうか、と個人的には思っている(私個人は本制度の立ち上げから関与したが、2016年度をもって退いた)。
葬祭ディレクター技能審査の第1回は1996(平成8)年のこと。
同年8月26日(月)に1級葬祭ディレクター技能審査を、翌8月27日(火)に2級葬祭ディレクター技能審査を、全国10会場にて実施した。
以来、1級・2級同日併行実施に変更したものの毎年継続実施され、2017年9月に実施された技能審査で22年となる。
2016年までの合計は、受験者総数は49,660名、1級合格者16,470名、2級合格者15,489名。合格者総数は31,959名である。
2級合格者の半数がその後1級を取得していると仮定すると、約2万5千人が葬祭ディレクターの概数となる。
葬祭従事者は多岐にわたり各種統計でも実数把握ができないが、およそ10万人と想定すると全体の4分の1程度となる。
葬祭事業に関係する各種事業所の主要担当者は資格取得していると見られる。
別な言い方をするならば、葬祭ディレクターが不在の葬祭事業所はその質が疑われるという認識が一般化するに至った。
葬祭ディレクター技能審査協会は、専門事業者の全国団体・全葬連(全日本葬祭業協同組合連合会)と冠婚葬祭互助会の全国団体・全互協(一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会)の主要2団体によって構成・運営されている。
しかし、葬祭事業に従事するすべての者に受験の門戸は開かれており(労働大臣が認定した際の条件)、実際にも両団体以外の受験者、合格者が約3割を占めている。
今では葬祭サービス事業分野における唯一にして統一された資格制度として社会的評価を受けている。
■葬祭ディレクターが変えたもの
「葬祭ディレクター」が葬祭サービス事業分野で変えたものは何か?
制度設計を開始した24年前の葬祭業務現場は、「極端に」言えばこうであった。
葬祭業務従事者の主要業務はどちらかといえば祭壇等の葬儀実施のための設営を中心としたものであり、「葬祭サービス」という視点はあまりなかった。
プロとしての意識は低く、知識は自己流が跋扈し、遺体を取り扱う立場でありながら公衆衛生知識に疎く、対消費者意識も欠け、マナーも悪く、全体的にコンプライアンス(法令遵守)の認識も薄かった。
各企業内部では教育訓練がなされないのに「10年経たなければ一人前ではない」という神話が横行。
結果として社会的地位としての評価が低く、かつ、死穢意識からくる不当な差別観に晒されていた。
こうした状況に対して危機意識を抱いた全葬連、全互協が一致して取り組んだのが葬祭ディレクター技能審査制度の立ち上げであった。
相互に何かと軋轢があった両団体が一致して取り組むには、労働省が「認定条件」として強く促したこともあった。
だが、多死高齢社会に足を踏み入れていながら、社会的地位の低さから、このままでは社会的課題に対応できないという差し迫った社会的要求を両団体幹部が共有したことによる。
それまでは「葬祭業務」の範囲、要求される質についての確立された共通認識がなかったので、「葬祭サービス」という概念を導入して業務の範囲、深度の枠を再構成した。
「葬祭ディレクター」を「葬祭サービスを提供するプロ(専門家)」と位置づけた。
そのうえでどのような知識しかも信頼できる内容のある知識をもつべきかを定めた。
歴史、葬儀を囲む社会環境、業務内容、公衆衛生、葬具、棺、火葬、墓、霊柩車、法要、死後事務、関連法令等についての知識、加えて葬儀が宗教儀礼として行われることが多いために宗教宗派とその儀礼の基礎理解も課した。
消費者にサービスを提供する者としての基準となるマナー、弁えておくべき法令の遵守も重要である。
葬祭サービスの中心となるのが死者の尊厳、遺族への配慮であることから遺体の死体現象と対処法、遺族心理についての理解は欠かせない。
当初は「葬祭サービス」と言えば、お客様への言葉遣い、礼の仕方といったマナーに関心が集まりがちであった。
これに加えて、お客様、特に死別直後の遺族の立場、心情を尊重したサービスをいかに提供すべきか各自が考えられるようにすることがテーマとなった。
「葬祭サービスを提供するプロ(専門家)の育成」という課題が浸透したことには葬祭事業を巡る環境変化もある。
葬儀が個人化、多様化し、高度経済成長期に定式化したかに見えた葬儀の常識が変容し、原点に立っての構築、対応が迫られるようになった。
家族関係や地域関係が変わり、遺族個々への対応をせざるを得なくなった。
経済格差が拡大し、それぞれに合った適切なサービスの提供も求められるようになった。
もはや祭壇の大きさで葬儀の価格やサービス内容を決める時代ではなくなった。
葬祭サービスで求められることの幅も広がり、深度も深くなった。
葬儀の現場は大きく変わった。
そのことを痛感しているのは現場の葬祭ディレクターである。
彼らがいなければ今の葬儀現場はどうなっていただろうか、と思うと、継続して葬祭ディレクターを育成してきたことの重要性がわかる。
また一方、依然として一部の経営者が葬儀の現場に無理解なまま、数字だけを追っている姿勢は変えなければいけないと思う。
経営と現場が一致して取り組むべき課題はまだまだ道半ばである。
学科試験、実技筆記試験。このほか、実技試験として接遇、司会、幕張がある。
2級受験資格はじつ葬祭実務経験が2年以上、1級受験資格は2級取得後2年以上の実務経験または5年以上の葬祭実務経験