友人の死、スーチャンの死―個から見た死と葬送(5)

個のレベルから見た死と葬送(5) 基本としてここに描いたものはフィクションである。私の周辺で生じたものが多く含まれているが、当事者の心象に投影して描いている。 ⑨友人の死 彼女が死んだらしい、と噂で聞いた。先月まで元気だったのだから嘘ではないか、と信じられないでいた。 もし、噂がほんとうなら、彼女と私が大の親友であると知っている娘さんから何かの報告があるはずだし、単に噂だけで安否を確認するのも、と思った。考えてみると連絡は全て彼女からだった。私にはない積極性を彼女はもっていた。 数日後、彼女の... 続きを読む

「昨日、密葬を済ませました」、「夢」と刻まれた墓―個のレベルから見た死と葬送(4)

個のレベルから見た死と葬送(4) 基本としてここに描いたものはフィクションである。私の周辺で生じたものが多く含まれているが、当事者の心象に投影して描いている。 ⑦「昨日、密葬を済ませました」 家に近づくと、近所の人たち数人が真剣な、驚いた顔を寄せて話していた。 近づく私に、「お隣の息子さんがいま救急車で運ばれて…」と、その一人が言った。 私は、昨日、息子さんが近くをいつもどおりに歩いているのを見ていたのできょとんとしていると、「いや、事情はよくわからないけど…」と言葉を濁して、一様に顔を見合わせた。... 続きを読む

夜中の電話、最期は眠るように~個のレベルから見た死と葬送(3)

個のレベルから見た死と葬送(3) 基本としてここに描いたものはフィクションである。私の周辺で生じたものが多く含まれているが、当事者の心象に投影して描いている。 ⑤夜中の電話 夜中に電話があるといまでもビクリとなる。 それは叔父の死であったり、親しい後輩の死であったり、夜中や明け方の電話は親しい者の死の通知と私の中では深く結びついているからだ。 親しい者が病床にあるときには、避けられればと思った死がついに到来したのか、と刃が胸を抉る想いがし、怯えた。 それが突然の死であったときには、呆然として現実感を失っ... 続きを読む

「父」の最期、「兄」が死んだ日~個のレベルから見た死と葬送(2)

個のレベルから見た死と葬送(2) 基本としてここに描いたものはフィクションである。私の周辺で生じたものが多く含まれているが、当事者の心象に投影して描いている。 ③「父」の最期 昏昏と眠り続ける父を見守るだけであった。 父の50代以降の人生は寂しかった。 結婚したばかりの若い息子が急逝。認知症になった老母を独り看取り、長く連れ添った妻と離婚し、独り暮らし。その元妻も急逝したがその葬式への参列は許されなかった。 父は、気はいいが、酒には溺れ、いわゆる「酒乱」だった。格好を気にし、夢は語るが、実現する根気という... 続きを読む

老いと死、生活と墓~個のレベルから見た死と葬送(1)~

「死」と言っても「葬送」と言ってもそれぞれが多様で固有であることは言うまでもない。 死や葬送について論ずる、というのはある半面しか描けない。 そこで具体的な場面を示してみようと思う。これ自体が、あくまでも私個人が感じるものでしかない。基本としてここに描いたものはフィクションである。私の周辺で生じたものが多く含まれているが、当事者の心象に投影して描いている。 過去に書いた短い断章を集めている。だから読まれたものもあるだろう。それぞれがそれそれで読んでくださればいい。1回あたり2編くらいをときどき掲載していく... 続きを読む