解題・散骨ガイドライン(下)

これまで散骨について書いてきたのは以下のとおり。
・散骨に関するガイドラインが公表
https://hajime-himonya.com/?p=5071
・散骨論議の経緯
https://hajime-himonya.com/?p=5079
・解題・散骨ガイドライン(上)
https://hajime-himonya.com/?p=5084
・解題・散骨ガイドライン(中)-散骨に関する法令(続)
https://hajime-himonya.com/?p=5088

「散骨ガイドライン」と言っているのは、
『令和2年度の厚生労働科学特別研究事業「墓地埋葬をめぐる現状と課題の調査研究」(代表研究者=同協会理事・東京福祉大学副学長 喜多村悦史氏)』に収められている「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」のことで、厚労省のホームページに掲載されている。
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000763737.pdf

 

■散骨を行う場所

(2) 散骨を行う場所 散骨は、次のような場所で行うこと。
① 陸上の場合
 あらかじめ特定した区域(河川及び湖沼を除く。)
 ② 海洋の場合  海岸から一定の距離以上離れた海域(地理条件、利用状況等の実情を 踏まえ適切な距離を設定する。)

《解題》
散骨を行う場所については極めて簡略に書かれている。
・陸上
「ガイドライン」というならば、せめて前に示したように、陸上においては
「他人の所有地、生活用水として用いられる河川等、養殖場や海水浴場の付近等の生活環境に不安を与える場所は回避」
程度のことは書かれてしかるべきであるように思う。

よくわからないのは「あらかじめ特定した区域」とあることである。
これは隠岐カズラ島を散骨場所としている例を想定しているのであろうか?
http://www.kazurajima.jp/sankotsu/index.html
あるいは散骨場を規制する条例があることを意識して、墓地に準ずる基準をクリアした区域でのみの散骨を想定したものであろうか?

「(河川及び湖沼を除く)」とあるのも解釈の余地がある。
「河川、湖沼は禁止」なのか、「河川、湖沼は区域を特定する必要がない」なのか、おそらく前者を意図しているのだろうが、解釈が一様でない文は入れるべきではない。

散骨の場所について陸上の規定はガイドラインとしての体をなしていない。
散骨事業者が行うのは海上が主で陸上はあまりないから、という理由もあるかもしれない。

・海上
海上についてはそれでも少しは具体的ではある。散骨については大手互助会も参入する等、散骨事業者のほとんどが海上散骨を行っているからだろう。
また経産省が2019年に冠婚葬祭互助会の指定役務を拡大して遺品整理等と並び散骨を加えることを承認したという流れも影響しているかもしれない。

とはいってもおおまかなものである。
「海岸から一定の距離以上離れた海域(地理条件、利用状況等の実情を 踏まえ適切な距離を設定する。) 」

「海岸から一定の距離」とは書かれているが、「地理条件、利用状況等の実情を踏まえて適切な距離を設定する」のは、散骨事業者と読めるからである。

つまり「海岸から一定の距離を保ちなさいよ。それがどの程度かは各散骨事業者に任せます」と言っているに等しい。

この背景にあるのは、熱海市、伊東市のガイドラインである。

熱海市海洋散骨事業ガイドライン
https://www.city.atami.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/000/630/2051_1515.pdf
では
「熱海市内の土地(初島含む。)から10キロメートル以上離れた海域で行う こと。」
と極めて具体的であり、距離が過大である。

一般社団法人日本海洋散骨協会のガイドラインでは
「人が立ち入ることができる陸地から1海里以上離れた海洋上のみで散骨を行い、河川、滝、干潟、河口付近、ダム、湖や沼地、海岸・浜辺・防波堤やその近辺での散骨を行ってはいけません。」
と1海里(1.852キロメートル)と設定。

うがった見方をするならば、熱海市は10㎞、日本海洋散骨協会は約2㎞と5倍の大きな差があるので、具体距離には踏み込まず、どちらも否定することなく「一定の距離」という曖昧な表現になったのであろう。

だがガイドラインというならば「最低2㎞以上」とかの表現が望ましかったように思える。

 

■焼骨の形状

 

「焼骨は、その形状を視認できないよう粉状に砕くこと。」
とある。

日本海洋散骨協会ガイドラインでは
「遺骨を遺骨と分からない程度(1mm~2mm程度)に粉末化しなければいけません。」
とある。
海洋散骨船協会では、
「遺骨はそれが人の骨とわからない程度に粉砕し、水溶性の袋に入れて散骨する。(2mm以下といわれています。)」
と定める。
熱海市ガイドラインでは、
「焼骨をパウダー状にし」
とより細かい要請。
葬送の自由をすすめる会では、
「他人に不快感や嫌悪感を与えないよう、また、なるべく早く自然に還るように、自然葬にする際には遺骨を粉末化(米粒大以下)することが必要です。」
とある。

「その形状を視認できない粉状」とは、少し言葉が足りない。
「その形状が元は焼骨であったという原型が視認できない粉状」という意味であろう。

■関係者への配慮

「散骨事業者は、散骨を行うに当たっては、地域住民、周辺の土地所有者、漁業者等の 関係者の利益、宗教感情等を害することのないよう、十分に配慮すること。」
地域住民、漁業者等が違和感や不安感情を抱いたり、風評被害が生じることのないよう配慮することを求めている。

「関係者の利益を害することのないよう」はわかるが、「宗教感情を害することのないよう」は大まかすぎる表現に思える。
「宗教感情」は墓地埋葬法では「国民の宗教的感情」と表現されているものであると思うが、「宗教的感情」を「宗教感情」と語句を多少変えているのは何か意図があるのだろうか?

墓地埋葬法の「国民の宗教的感情」とは、死者、遺骨を大切にしようとする感情という意味合いであるが、ここで「宗教感情等」とすると、散骨に対する違和感、不安感、嫌悪感等の複雑な感情を意味しているように感じるのは考え過ぎであろうか。

 

■自然環境への配慮

 

「散骨事業者は、散骨を行うに当たっては、プラスチック、ビニール等を原材料とする 副葬品等を投下するなど、自然環境に悪影響を及ぼすような行為は行わないこと。」

事業者団体である日本海洋散骨協会ガイドラインでは、海洋汚染を防ぐという目的を明示して、より具体的な表記となっている。

「5 自然環境への配慮義務
(1)加盟事業者が散骨をするにあたっては、自然に還らないもの(金属・ビニール・プラスチック・ガラスその他の人工物)を海に撒いてはいけません。【注4】(2)加盟事業者が散骨に伴い献花、献酒するにあたっては、周辺の状況に配慮するよう努めなければなりません。【注5】
【注4】自然に還らないものを撒いた場合、海洋汚染につながります。また、それらが海岸に流れ着いた場合、トラブルが発生する可能性があります。献花するにあたっては、花などのラッピングは外した上で、自然に還るもののみを海に撒く必要があります。
【注5】大量の献花、献酒は、海洋汚染の原因になる可能性があるので、周辺の状況へ配慮しながら行う必要があります。」

熱海市ガイドラインには
「環境保全のため自然に還らないもの(金属、ビニール、プラスチック、ガ ラスその他の人工物)を撒かないこと。」
とある。

■利用者との契約等

 

・約款
「 ① 約款の整備
 散骨事業者は、あらかじめ散骨に関する契約内容を明記した約款を整備し、公表するとともに、利用者の求めがある場合には、約款を提示すること。 」

《解題》
約款の整備が定められたのはいい。
墓地の契約においてもきちんとしていないのは約款である。
寺との契約という性格から一方的な「使用許可」ということが依然として多いが、対等な契約であるのは当然である。
「利用者の定めがある場合には」とあるが、本来は「契約に先立って約款を提示する」とすべきである。

・利用者の契約内容の選択
「②散骨事業者は、約款に定める方法により、利用者の契約内容に関する選択に応じること。」

《解題》
「選択権」は消費者の基本的権利の一つ。

・契約締結
「③契約の締結
・ 契約内容の説明 散骨事業者は、契約の締結に当たっては、必要な教育訓練を受けた職員にあらか じめ適切な説明を行わせ、利用者の十分な理解を得ること。
 ・ 契約の方法 散骨に係る契約の方法は、文書によること。
・ 費用に関する明細書 散骨事業者は、契約の締結に当たっては、費用に関する明細書を契約書に添付す ること。」

《解題》
・営業者の教育訓練
一般社団法人全国海洋散骨船協会の海洋散骨ディレクター講習が目に浮かぶが、散骨事業者の営業にあたっては営業パーソンの事業内容の知識習得、消費者保護の法令遵守の教育が欠かせない。

・説明と同意
「あらかじめ適切な説明」→「利用者の十分な理解」は消費者契約上不可欠。
「契約は文書による」とあるが、できれば契約書のひな型の提示があるとよい。事業者個々に委ねると重要項目が落ちたりしがちである。

・ 費用明細書の添付
「費用に関する明細書 散骨事業者は、契約の締結に当たっては、費用に関する明細書を契約書に添付す ること。」
費用明細の提示は不可欠。
しかも文書で提示される必要がある。
消費者契約において内容の提示と併せて費用の見積がなければ契約として成立しない。

・解約の自由
「④ 契約の解約 散骨事業者は、約款に定めるところにより、利用者の解約の申し出に応じること。」
「解約の自由」は不可欠な条件。
一般の墓地契約においても民間では一部の墓地においてしか保証されていない。
トラブルになりがちなのは解約金である。解約金の基準について考え方くらいは提示されるとよい。

・散骨証明書の発行
「⑤ 散骨証明書の作成、交付
散骨事業者は、散骨を行った後、散骨を行ったことを証する散骨証明書を作成し、 利用者に交付すること。」
散骨証明書の発行は、散骨事業の開始当初より多くの事業者により行われてきた。
いつ、どこに、誰によって散骨されたかの証明は必要。

日本海洋葬協会ガイドラインには
「(1)加盟事業者は、遺族から希望があった場合、散骨した場所の緯度・経度を示した散骨証明書を交付しなければいけません。
(2)加盟事業者は、散骨証明書の交付申請に備えて、故人の散骨した場所に関する情報を、散骨実施後10年間保管しなければいけません。【注7】
【注7】散骨をした場所を巡る周忌クルーズの実施を希望する方もいます。その場合に、散骨した場所が不明になってしまうことを避けるため、散骨証明書の交付、散骨場所に関する情報の保管が必要となります。」
とある。

希望如何によらず発行すべきである。記録の保管は「周忌クルーズ」の便とあるのは実際的だが、最も重要なのは散骨された事実の記録である。

■実施状況の公表

 

「(8) 散骨の実施状況の公表
散骨事業者は、自らの散骨の実施状況(散骨の件数、散骨の場所等)を年度ごとに取 りまとめ、自社のホームページ等で公表すること。 公表あるいは事業の紹介、PR においては、亡くなった人を含め、個人情報の取り扱 いには十分に配慮すること。」

《解題》
事業状況が公開されることは歓迎される。
個人情報の保護は十分に留意される必要がある。

以下、説明省略
「 4 散骨関係団体に関する事項
(1) 散骨関係団体の役割 散骨関係団体は、会員事業者やその職員に対する研修会の開催等、散骨が適切に行わ れるための取組みに努めること。
(2) 散骨の実施状況の公表 散骨関係団体は、会員の散骨の実施状況(散骨の件数、散骨の場所等)を年度ごとに 取りまとめ、自団体のホームページ等で公表すること。また地方公共団体の求めがあれ ば提出すること」

(参考)
・散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)
 (令和2年度厚生労働科学特別研究事業「墓地埋葬をめぐる現状と課題の調査研究」研究報告書より)
 https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000763737.pdf

・令和2年度の厚生労働科学特別研究事業「墓地埋葬をめぐる現状と課題の調査研究」(代表研究者=同協会理事・東京福祉大学副学長 喜多村悦史氏)
http://www.zenbokyo.or.jp/20210413-j-sec-houkokusho.pdf

・日本海洋散骨協会
https://kaiyousou.or.jp/

・日本海洋散骨協会ガイドライン
 https://kaiyousou.or.jp/guideline.html
・全国海洋散骨船協会
 http://www.kaiyosankotsu.org/rule.php

・葬送の自由をすすめる会
 https://www.shizensou.net/

・自然散骨カズラ島
 http://www.kazurajima.jp/

 

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投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/

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